【大丈夫】


 次いで聞こえてくるヴァーリックの声。彼はオティリエの手を握ると、そっと瞳を細めた。


【こうしたら聞こえない。だから怖がらなくていい】


 ヴァーリックが言うやいなや、なぜかイアマの声が遠ざかっていく。彼女の表情を見るに、おそらくはまだ心のなかでヴァーリックへの恨み言を叫んでいるはずだ。けれど、まるで耳をふさいでいるかのように、オティリエの心には響いてこない。


 ヴァーリックが改めて合図をすると、使用人がイアマを連れて行く。怯えつつ、あとに続こうとしたオティリエをヴァーリックがそっと引き止めた。


「ああ、オティリエ嬢のことは安心していい。まだ話が残っているし、彼女は僕が別の馬車で屋敷まで送り届けるから」

「えっ? でも……」

【あの状態のイアマ嬢と一緒の馬車に乗りたくはないだろう?】


 ヴァーリックの声が聞こえてくる。オティリエは思わず泣きそうになった。


「なっ! どうして! どうしてオティリエばかり――っ!」


 イアマは悔し気に顔を歪ませつつ、ヴァーリックたちから遠ざかっていく。オティリエは思わず事態に目を丸くした。