「ああ、イアマ嬢」


 ニコリと微笑みかけながら、ヴァーリックがオティリエを背後に隠す。彼はほんの一瞬だけ、オティリエのほうを振り返った。


【ここにいて】

(……え?)


 ヴァーリックの心の声が頭の中で響く。オティリエはそっと首を傾げた。


【僕はまだ君と話したいことがある。だけど、これ以上君のお姉様を待たせることはできないみたいだ】

(伝えたいこと……?)


 オティリエにはそれがなんなのか、見当もつかない。けれど、おそらくは心のなかで一方的に伝えればいいという内容ではないのだろう。


「そろそろわたくしからも殿下にご挨拶をさせていただいてよろしいでしょうか? 殿下にお会いできるこの日を、本当に楽しみにしていましたのよ」

【さあ、さっさとわたくしに魅了されなさい?】


 イアマがそっと瞳を細める。オティリエはハッと息を呑んだ。


(どうしよう! 殿下はお姉様の能力をご存知ないはず)


 先ほど父親がイアマの能力を伝えた相手は王妃だけだ。ヴァーリックは少し離れたところにいたため、二人の会話は聞こえていないはずである。


(なんとかして殿下にこのことを伝えないと)


 けれど、オティリエからヴァーリックに心の声を伝える術は存在しない。おまけに、オティリエはイアマがどのように能力を使うかを知らないため、対処法もなにもわからなかった。