「そもそも君が取りにいかなければ食事が提供されないなんて異常だ。そのうえ、その状況を容認している侯爵やイアマ嬢は明らかにおかしい。間違っている。オティリエ嬢、君はなにも悪くない。彼らに対して怒っていいんだ」


 怒りをにじませたヴァーリックの言葉に、オティリエは涙が出そうになる。

 誰かに味方をしてもらったのはこれがはじめてだった。ずっとずっと、自分が間違っていると思っていたし、そう言われ続けていたのだ。そのうえ、彼はオティリエのために怒ってくれた。そのことがオティリエはとても嬉しい。


「ありがとうございます、ヴァーリック殿下。殿下の言葉で私は救われました」

「救われた、って……君がよくても僕がよくない。すぐに侯爵のところに行こう。僕が抗議を――」

「本当に! 私のことを思っていただけるのであればお気持ちだけで留めてください。もしも殿下が父や姉にこのことを伝えれば、私はひどい折檻を受けるでしょう。私にはあの家の他に行く場所も頼る宛もないのです」

「……そうか」


 ヴァーリックは返事をしながら、なにやら思案顔を浮かべている。


(一体なにを考えていらっしゃるのかしら?)


 考えごとをしているのは間違いないのに――なぜだろう? ちっとも声が聞こえてこない。いつもならどれだけ耳をふさいでも、他人の声が頭のなかに流れ込んでくるというのに、おかしなことだ。


「ヴァーリック殿下」


 そのとき、イアマの声が背後で響く。振り返ると、イアマがいかにも不機嫌そうに微笑んでいて、オティリエはビクッと身体を震わせた。