◇◆◇


(消えなければ。早く。私は――幸せになってはいけない。不幸でなければいけない。この世にいちゃいけない存在なのよ)


 だって幸せはイアマのものだから。オティリエが持っていてはいけないものだから。だから、自分の存在ごと全部イアマに返さなければならない。


(オティリエさえ――私さえいなければ――)


 頭の中にイアマの声がこだまする。イアマの声がオティリエの声になる。自分がなんなのか、もうわからない。見えない。聞こえない。下に、下に引きずられていき、暗闇に飲み込まれていく。なくなっていく。これでいいのだ、とイアマの声がささやく。


(そうね)


 オティリエさえいなくなればすべてがうまくいく。あるべき姿に戻る。最初からこうなる運命だった。もしもヴァーリックに出会っていなかったら……。


【オティリエ】


 そう思ったそのとき、声が唐突に聞こえてくる。――イアマともオティリエとも違う。あまりにも小さくて聞き間違えではないかと思うほど……けれど、オティリエにはたしかに聞こえる。オティリエを呼んでいる。


【オティリエ! 僕の声を聞いて! オティリエ!】


 力強い声。声の主ははっきりと求めている――オティリエのぬくもりを。その存在を。