「行かせませんよ」


 と、使用人が返事をする。イアマは「はぁ?」と声を荒げた。


「なにを馬鹿なことを言っているの? 大体、誰に向かってものを……」


 顔を上げ、ビクリと身体を震わせる。見れば、目の前には屋敷の使用人たちのほとんどが集結しており、彼女のことを冷たく睨みつけているではないか。


(なに? なんなのよ、その目つきは。これじゃまるで……まるで! わたくしが悪いみたいじゃない! その顔はオティリエに向けるべきものでしょう!?)


 軽蔑、哀れみ、憎悪に憤怒。それらはイアマが使用人たちを操作して、オティリエに対して向けさせていた感情だ。
 胸が、身体がざわざわする。気持ち悪い……イアマは思わずぎゅっと己を抱きしめた。


「イアマ様、私たちはもうあなたの命令は聞きません。オティリエ様にはこれまで辛い思いをさせてしまいました。これから先はどうか幸せになっていただきたい。……ですから、イアマ様を行かせるわけにはまいりません」


 使用人頭が言う。幼い頃からアインホルン侯爵家に雇われていた人間だ。これまで彼がイアマの命令に背いたことなど当然なく、心底彼女に心酔していたというのに……。