「馬車を出しなさい」


 イアマが使用人に命令をする。彼女は美しく豪奢なパーティードレスに身を包んでいた。


「……どこに向かわれるのですか?」

「決まってるでしょう? 城に行くのよ。さっさとしなさい。遅れてしまうでしょう?」


 嘲るように言いながら、イアマは眉間にシワを寄せる。

 今夜は王城で夜会が開かれるらしい。父親は頑なに隠していたが、時期から鑑みてオティリエを王太子の婚約者として披露するための会だということは明白だ。

 ……だというのに、侍女たちは誰もイアマの着替えを手伝おうとしない。イアマが呼んでも誰も部屋に来ようとすらしなかった。


(忌々しい。絶対にぶち壊してやるわ)


 オティリエのものはすべてイアマのもの……本来彼女が手に入れるべきものだ。金も、王太子妃としての地位も名誉も、それから幸せもすべて。

 だから、全部奪い返さなければならない。なんとしても。