「ありがとうございます、ヴァーリック様」

「……オティリエが笑ってくれてなによりだよ」


 ヴァーリックのほほえみにオティリエの胸がドキッと高鳴る。すでにこれ以上ないほど好きなのに……どれだけ夢中にさせれば気が済むのだろう。平常心を装ったものの、オティリエはドキドキが止まらなかった。


「ところで、今日はオティリエにプレゼントを持ってきたんだよ」


 アルドリッヒはそう言うと、テーブルの上に小さなビロードの小箱を乗せる。


「これは?」

「妻の――おまえの母親の形見のブローチだ」


 うながされて小箱を開けてみる。なかには海のように深い青色の大きなサファイアが。周りには小さなダイアモンドが散りばめられており、王室顔負けの一品だ。


「これを私に? けれど、よろしいのですか? お母様との大事な思い出の品なのでしょう?」

「思い出の品だからこそオティリエに持っていてほしいんだ。この石はきっとおまえのことを守ってくれるよ」


 父親の返事を聞きながら、オティリエはブローチをそっと撫でる。


(お父様が私にお母様との思い出の品をくれるなんて……)


 夢でも見ているのだろうか? ……そう尋ねたくなってしまう。けれど、これは紛れもない現実だ。


「ありがとうございます、お父様」


 うまれてはじめて父親に向ける満面の笑み。オティリエの父親はハッと目を丸くしたあと、再び大声で泣きじゃくるのだった。