ギロリとイアマがオティリエを睨みつける。恐怖で身がすくみ上がるが、ヴァーリックがこちらを優しく見つめているのに気づいてドキリとする。


「行きなさい、オティリエ」

「お父様!? けれど……」

「他でもない殿下からのお申し出だ。こんな機会、オティリエにはもう二度とおとずれないだろうから」


 父親がイアマをなだめる。イアマは眉間にグッとシワを寄せた。


【お父様ったらなにを考えているの? オティリエには一度だってそんな機会を与える必要ないでしょう? 第一、わたくしはまだ殿下を魅了できていないのよ! これではわたくしの妃への道が遠のいてしまうわ!】


 絶叫にも似たイアマの声。オティリエはビクビクしながらヴァーリックとイアマとを交互に見る。


「それじゃあ、僕たちはこれで失礼します。行こう、オティリエ嬢」


 ヴァーリックはそう言うと、オティリエを連れて足早にその場を立ち去るのだった。