「お父様……」


 オティリエはつぶやきつつ、少しだけ後ろずさってしまう。

 最後に父親に会ったのはもう一年近く前のことだ。あのとき父親はオティリエに対して形だけの謝罪をしてくれた。すまなかったと。

 けれど、彼が悪いと思っていなかったことは明白だったし、謝られたからといってすべてが帳消しになるわけではない。オティリエにとって父親は恐怖と悲しみ、苦しみの象徴だった。


(怖い……)


 父親を見ることが。声を聞くことが。……オティリエに対する心の声を聞くことが。
 彼がそこにいると思うだけで胃のあたりがキュッと痛むし、息が浅くなってしまう。逃げ出したい――そう思ってしまうのも無理はない。


「オティリエ」


 と、ヴァーリックがそっとオティリエの肩を抱く。大丈夫だよとほほえまれ、オティリエはおそるおそる父親のことを見た。


「あの……」


 なにを話せばいいのだろう? 会話らしい会話をしたこともないし、どうすればいいのかわからない。父親はずっと押し黙ったまま、オティリエのことを見つめ続けている。