(悔しいな……)


 オティリエが『ヴァーリックを幸せにできる』と胸を張って言えたらどれほどよかっただろう? 彼の想いに笑顔でこたえられたなら、きっとものすごく幸せだったに違いない。ヴァーリックだって喜んでくれたかもしれないのに……そう思うものの、オティリエの脳裏にイアマや使用人たちの影がチラついてしまう。

 たしかに、仕事についてはある程度自信がついた。オティリエにしかできないことがあるという自負もある。
 けれど、仕事を抜きにした『オティリエ自身』についてとなると話はまた別だ。
 あれだけ『死んじゃえばいい』とか『無価値だ』と思われ続けてきたのだ。自信が持てないのは当然だろう。もちろん、そんな彼女の価値を見出し、勇気づけてくれたのもヴァーリックだったのだが。


【苦しい……】


 とそのとき、風に乗って心の声が聞こえてくる。


(これ……ヴァーリック様の声)


 オティリエが聞き違えるはずがない。体調が悪いのだろうか? オティリエは急いでヴァーリックの姿を探す。
 と、少し進んだところですぐにヴァーリックを見つけることができた。彼はうずくまるでも胸を押さえるでもなく、ただただ月を見上げている。


(こんなところで護衛も連れずになにをしていらっしゃるのかしら?)


 どうやら体調が悪いわけではないらしい。声をかけるべきかどうか迷いつつ、オティリエはそっとヴァーリックの様子をそっと伺う。