「ヴァーリック、あなたがいきなり話しかけるからオティリエが驚いているわ。挨拶が先でしょう?」

「失礼しました、母上。彼女の能力があまりにも興味深かったものですから」


 ヴァーリックは母親に向かってそう言うと、オティリエの手をそっと握る。それから手の甲に触れるだけのキスをした。


「はじめまして。僕はヴァーリック。この国の王太子だ」

「……はじめまして」


 ヴァーリックの挨拶から数秒、オティリエはようやく事態が飲み込めてくる。


(え? 私、キスをされたの? ヴァーリック殿下に?)


 キスをされたといっても手の甲に対してなのだが、オティリエはまさか自分がそんな挨拶をしてもらえる日が来るなんて夢にも思っていなかった。……今だって信じられずにいる。驚くやら恥ずかしいやら。彼女の頬は真っ赤に染まってしまった。


「はじめまして、ヴァーリック様。わたくしはイアマと――」

「ごめんね。今はオティリエ嬢と話しているから、あとにしてもらえるかな?」


 ヴァーリックがイアマの発言を遮る。


「なっ……」


 イアマが思わず声を上げると同時に、周囲からクスクスと笑い声が聞こえてきた。イアマが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。ややして彼女はヴァーリックから顔をそらした。