(だけど……会いたいな。ヴァーリック様の顔が見たいな)


 迷惑になるかもしれない。そうとわかっていてもなお、自分の欲求を優先させてしまいたくなる。


(少しだけ……ほんの少しだけだから)


 目指すはヴァーリックの執務室。行き先変更だ。

 道すがら、どうしてヴァーリックの執務室に来たのか尋ねられたときの言い訳を必死に考え、イメージトレーニングをくりかえす。気になる書類があったとか、言いようはいくらでもある。心の声が聞こえるオティリエなら簡単に対処ができるはずだ。

 一瞬だけ『ヴァーリックに会いたかったから』と正直に打ち明けることも考えた。けれど、さすがに恥ずかしすぎるし、万が一笑い飛ばされたら立ち直れない。他の補佐官に聞かれるのもためらわれる。……そのぐらい、オティリエにとってヴァーリックに会いたいという気持ちは切実で真剣な想いだった。


「ああ、オティリエさん。なんだか久しぶりですね」


 執務室につくとすぐにヴァーリックの護衛であるフィリップたちに声をかけられる。オティリエは彼らに向かって会釈をしてから、ほっと胸をなでおろした。


(よかった。フィリップさんがここにいるってことは、ヴァーリック様は間違いなくお部屋にいらっしゃるわ)


 ノックをしてから部屋に入ろう――彼女がそう思ったそのときだった。