(妃殿下はきっと、心からヴァーリック様のことを思っていらっしゃるのね)


 子を思う母親の愛情は温かい。彼女はただ、ヴァーリックに幸せになってほしいのだ。……王太子としてだけでなく、一人の人間として。オティリエはなんだか胸がほっこりしてしまった。


「だけど最近ね、あの子が仕事以外の話もしてくれるようになったの。これってすごいことだと思わない?」


 と、さっきまでのしんみりした空気が一転、王妃が嬉しそうな笑みを浮かべる。


「まあ……! そうなんですね?」

「ええ。私、嬉しくて嬉しくて……。だから私、オティリエにとても感謝しているのよ?」

「え?」


 オティリエが目を丸くする。王妃は改まった表情で彼女を見つめると、静かに頭を下げた。


「ずっとずっとあなたにお礼が言いたかったの。あの子を自由にしてくれてありがとうって」

「そんな……私はなにもしていません。お礼を言うべきなのはむしろこちらのほうです。ヴァーリック様はいつも私を助けてくださって……」

「そんなことないわ。あなたはあの子の心の支えになっている……母親である私が言うのだから間違いありません。もっと自信を持ちなさい、オティリエ」


 王妃がオティリエの頭をポンと撫でる。オティリエは目頭が熱くなった。


(本当に? 私はヴァーリック様の支えになれているの?)


 にわかには信じがたいが、もしもそうだとしたら……とても嬉しい。


「これからもあの子の側にいてあげてね、オティリエ」

「……はい」


 返事をしつつ、オティリエははにかむように笑った。