神殿の件にかたがついてからひと月、オティリエは穏やかな日常を送っていた。


(あんなに忙しかったのが嘘みたい)


 時間に追われることなくゆっくりと書類に向き合えることがとても嬉しい。そう思っているのはオティリエだけじゃなく、他の補佐官たちも同じだった。


【よかった……今夜の夜会は予定どおり参加できそうだ。これで婚約者に叱られずに済む】

【帰ったらゆっくり眠ろう】

【見に行きたい芝居が……】


 三カ月ものあいだ私生活を投げ売っていた反動はとても大きい。多少上の空になってしまうのは仕方がないことだろう。


(よし、これで今日中に仕上げなければいけない書類は終わりね)


 就業時間終了まであとわずか。オティリエはため息をつきつつ、グッと大きく伸びをする。と、ヴァーリックが執務室へと戻ってきた。彼は補佐官たちの執務スペースにやってくると、オティリエに向かってほほ笑みかける。


「オティリエ、ちょっといい? 頼みたいことがあるんだ。あまり時間はとらせないから」

「ヴァーリック様! もちろん、なんなりとお申し付けください」


 ソファに移動するよう促され、オティリエはヴァーリックの向かいに腰かけた。