「だったらなんだというのです? 私は単に信心深いというだけですよ」

「本当にそうだったらどんなによかったか。少しは神様も味方してくれたかもしれませんね」


 ヴァーリックがため息をつく。彼はもう一枚書類をテーブルに置き、まじまじと辺境伯を見つめた。


「あなたが雇った暗殺者についてはすでにこちらで捕らえている。依頼主があなただという話も聞いた。言ったでしょう? 証拠はすでに押さえてある、と」


 辺境伯がぐぬぬと歯を食いしばる。


【くそっ! くそっ! 無能な神官どもめ! あいつらさえ……あいつらさえもっと上手くやっていたら……! そうすればこの国は私のものになっていたかもしれないのに】

「それは無理だよ」


 ヴァーリックはそう言って彼の補佐官――オティリエの隣に立つ。


「だって僕にはオティリエがいるからね」


 自慢げな笑顔。どうしてそんな表情を浮かべるのか、どうして彼女がいれば企みが上手くいかないというのか、辺境伯にはちっとも意味がわからない。


 けれど、ひとつだけたしかなことがある。


【私の企みはあえなく終わってしまったのだな】


 辺境伯はがっくりと床に膝をつき、天を仰ぐのだった。