「かしこまりました。それでは、こちらで概要を説明してください。ヴァーリック様には私が責任を持ってお渡ししますね。決裁が終わりましたら連絡をさせていただきますので」

「そうですか。ありがとうございます。いやぁ……殿下にひと目お会いしてみたいと思っていたのですが、やっぱりお忙しいのですね。神殿の調査も継続しているのでしょう?」

「ええ、まあ……」


 返事をしながらオティリエはチラリと文官を見る。はじめて直接やりとりをする男性だ。あまり役職は高くなく、評判もほとんど聞こえてこない。決裁等も普段なら他の職員に任せるようなタイプに見えるのだが……。


「補佐官さんも大変でしょう?」

「いえ、私は別に……仕事ですから」


 むしろこれでは足りないと思っているぐらいなのに。悔しさのあまりオティリエがグッと拳を握ったそのときだった。


【さっさと調査を切り上げてしまえばいいのに……なにを躍起になって調べ続けているんだ?】


 と、目の前の文官の心の声が聞こえてくる。オティリエは思わず目を丸くした。


(え!?)


 オティリエの心臓がドクンドクンと大きく跳ねる。
 どうしてそんなことを思うのだろう? 彼は実際に調査を担当しているわけでもないのに。


(まさか……まさか!)


 ずっと探し続けていたつながり。この文官はなにか事情を知っているのではないか? 調査を切り上げてほしいと思うようななにかを――?
 オティリエは興奮を悟られないよう、ゆっくりと大きく息を吸った。