「本来ここに嵌められているべきなのは隣国産のピジョンブラッドです。けれど、これはよく似た色合いの紅い水晶。他の石もそう。これなどは天然の鉱物ではなく人工的に作られたもので、価値は本物の数百分の一しかありません」

「じゃ……じゃあ、本物の宝石は?」

「おそらく売られてしまったのでしょうね。普通の人間には少し眺める程度で宝石が本物か見分けることはできませんし、神殿側はバレないと高を括っていたのでしょう。例年の視察のような短い時間ならなおさら。正直、宝物の保管数が正しいかを一つ一つ突き合わせることだって稀です。もしもオティリエさんがいなかったら今回も『問題なし』と判断していた可能性が高かった。――偽物を用意したのは万が一のときのための保険だったのでしょう。神殿のやりようは本当に悪質だと思います」


 オティリエはエアニーの説明を聞きながら呆然と宝物庫を眺め、胸のあたりをギュッと握る。


(神官たちは本当に国を乗っ取ろうとしているのね)


 持ち去られた宝物はその資金集めのために利用されたと考えるのが自然だ。

 では、資金はどこに、どのぐらいあるのだろう? 想像するだけで恐ろしい。オティリエの背筋に悪寒が走る。


【落ち着いて、オティリエ。すでに調査をする理由は十分たっている。まずは神殿内を徹底的に捜索しよう】


 ヴァーリックの言葉に彼女は小さく頷いた。