(それから、『嘘』があるとも言っていました。財政状況を説明しているときのことです。どんな嘘をついているのかはわかりませんでしたが、おそらくはなにかしらの形で帳簿を誤魔化しているんだと思います。だけど、このままじゃ今年も形ばかりの視察になってしまうから)

【それでなんとかして僕に状況を伝えたかったんだね】

(そうなんです)


 ヴァーリックはオティリエの言葉を疑うことすらせず、すぐに状況を読み取ってくれる。もしも彼がこのまま神官たちの心の声を直接聞くことができたら、状況をひっくり返せるのではないか――?


(あの、今ヴァーリック様に聞こえているのは私の声だけですか?)

【いいや、オティリエ以外の人間の心の声も聞こえているよ】


 心のなかで資料を先読みする声、神官の説明を復唱する声、今日の食事の内容に思いを馳せる声など……おそらくはオティリエが聞いているものと同じ音がヴァーリックにも聞こえているのだろう。


(だとしたら――!)

【僕も同じ考えだ。オティリエ、このまま能力を繋ぎ続けることはできそう? 神官に対していくつか質問を投げかけ、揺さぶりをかけたい。そのときに彼らの心の声を聞いておきたいんだ】

(やります。絶対にこのまま繋ぎ続けてみせます)


 オティリエは力強くそう請け負う。ヴァーリックは【よし】と返事をした。