オティリエの記憶のなかのアルドリッヒは、いつも無表情で感情の変化に乏しい人だった。心の声もほとんど聞こえてこず、なにを考えているのか、そもそも考えて行動をしているかどうかもよくわからない。
 とはいえ、彼の記憶力はすさまじく、いつも的確に誤りや些細な違いを指摘してくるので、使用人たちや父親からも内心恐れられていたのを覚えている。


(そんなお兄様が、私を可愛いと思うなんて……)


 にわかには信じがたい。別人だと考えたほうがよほどしっくり来た。


「オティリエ、大丈夫?」


 と、ヴァーリックがオティリエに声をかけてくる。どうして? と首を傾げたら、ヴァーリックは真剣な表情で彼女を見つめた。


【もしかして、お兄さんになにか酷いことを言われていない? 前回話をした感じ、問題ないと思っていたんだけど】


 ほとんど会話をかわさないままオティリエもアルドリッヒも黙りこくってしまったため、なにかあったのではと心配をしてくれたらしい。オティリエは首を横に振りながら「大丈夫です」と返事をする。