夜会会場はとても広くきらびやかだった。シャンデリアの柔らかな光、色とりどりのドレスを着た美しい貴族たちが優雅な音楽が流れるなかで歓談している。これだけ人が多いとどれが人々が実際に喋っている言葉で、心の声なのかの区別がつかない。


(『声』に押しつぶされるんじゃないかって不安だったけど)


 離れていれば案外平気かもしれない。BGMだと思えば大半は聞き流せそうだ。
 ふと見れば彩りも豊かな食事が立ち並んでいる。ここ数日まともな食事ができているとはいえ、それまでひもじい生活を送っていたオティリエは思わずゴクリとつばを飲んだ。


「いっ……!」
【あなた、わたくしがさっき言ったことをもう忘れたの?】


 オティリエのつま先をイアマのハイヒールが踏み潰す。彼女の言う『さっき言ったこと』とはつまり『周囲から田舎臭いと受け取られるような行動』を指すらしい。


「申し訳ございません、お姉様」


 小声で謝罪をしつつオティリエは涙目になった。


「まずは妃殿下に挨拶をしよう。すでに会場入りなさっているみたいだ」


 父親は二人のやりとりには気づかないまま会場を悠然と進んでいく。オティリエは遅れないよう必死に二人のあとをついて行った。少し進んだところで、他よりもたくさんの人が集まっているのに気づく。オティリエの身長では見えないが、人だかりの中央にいるのが妃殿下なのだろう。