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(行きたくないな……)


 そんな思いとは裏腹にオティリエのお腹が切なげに鳴る。
 最後に食事をとったのはかれこれ三日前のことだ。一緒にもらった水も底をついたので、そろそろ部屋を出て使用人たちのもとに向かわねばならない。

 オティリエは深呼吸をひとつ、空っぽの体を引きずりながら部屋を抜け出した。


(……よし。お父様とお姉様は近くにいないみたいね)


 耳を澄ましてから、念のためにキョロキョロとあたりを見回してみる。――二人の声は聞こえない。彼女は急いで階段を駆けおりた。


「あの……」


 厨房に着くと、オティリエは使用人たちにおそるおそる声をかける。彼女たちは無言のまま、ゆっくりとオティリエのほうを振り返った。


【うーーわ、来ちゃった】
【そろそろだとは思っていたけど】
【ああ、タイミング最悪。今夜の牛頬肉、楽しみにしていたのに】


 冷たい視線に嘲るような笑み。それだけで彼らがどんな感情をオティリエに向けているか手に取るようにわかる。けれど、オティリエはそれ以上……彼らがなにを考えているのかはっきりとわかった。


 心読み――オティリエが持って生まれた天性の能力だ。


 オティリエの生まれたアインホルン家の人間はみな、精神に関連した能力を持って生まれてくる。彼女の父親は他人の『記憶』を読み取る能力者であり、兄は一度見たものは決して忘れない能力を持つ。そして姉であるイアマは魅了の能力者だ。

 それらは広大なリンドヴルム王国でも稀少な能力のため、一族はとても重宝されている。と同時に、彼らは他の貴族たちから恐れられていた。