「そうなんだ……。それじゃあ、彼が文官になってから実家に帰ってきた経験は?」

「おそらくゼロではないと思います。ただ……私は顔を合わせてないのでわかりません。けれど、どうしてそんなことを?」

「それだけ長期間実家から離れていたなら、君のお兄さんはイアマ嬢の魅了の影響が消えているか薄れているんじゃないかと思ってね」


 ヴァーリックの返答にオティリエは目を丸くする。


「そっか……そういう可能性もあるんですね」


 もしも家族や使用人たちが魅了の影響を受けていなかったら、どんなふうにオティリエに接してくれるだろう? イアマにしていたように優しく微笑みかけてくれるだろうか? ――城に来てからそんな想像をしたことは何度かあった。もっとも、実現する日が来るとは微塵も思っていないのだが。


「兄に魅了の影響が残っていても仕事ですから。きちんと割り切ってこなしますよ」


 好きや嫌い、苦手といった感情に左右されていては仕事がまったく進まない。城内で働いているあらゆる人が心のなかではあれこれ考えながら立派に仕事をこなしていると知っているので、オティリエも見習わなければならないと思う。