(私はきっと――嬉しいんだわ)


 それがなぜなのかうまく説明できないけれど。

 オティリエとヴァーリックの視線が絡む。どちらともなく顔をそらし、それからまたゆっくりと見つめ合う。なにか言わなければ……そう思うものの、唇がうまく動かない。

 どのぐらい経っただろう。沈黙を破ったのはヴァーリックだった。


「ねえ、もしも僕が『たとえ能力を分け与えるためであっても他の男と手を握るのは嫌』だって言ったら、オティリエはどう思う?」

「え?」


 どこか拗ねたようなヴァーリックの表情。普段は年齢よりも大人びて見えるのに――そんなことを考えつつオティリエは首を小さく横に振る。


「ヴァーリック様が嫌なら、今後は手を握る以外の方法を……離れていても能力を分け与えられるように練習します」


 彼女の返事を聞きながらヴァーリックが目を丸くする。それからとても嬉しそうに笑った。


(本当は『嫌なんですか?』って尋ねてみたかったけど)


 この反応を見るに、きっとそうなのだろう。

 だとすれば、どうして嫌だと思うのだろう――オティリエの疑問は尽きない。尽きないけれど、彼が心の声を隠している以上、詮索するのは無粋だろう。きっと聞かれたくないと思っているはずだ。


(いつか教えてくださるかしら?)


 教えてほしいような、ほしくないような……そんなことを考えながら、オティリエはそっとほほえむのだった。