オティリエの能力は本人が思っていたよりもたくさん使いどころがあった。

 まず、文官との交渉や調整が必要なとき、相手の本音がわかっているとやりとりがとてもしやすい。譲れるラインがどこなのかを自然とはかれることは、仕事をスムーズにこなすための秘訣だった。

 また、ヴァーリックに頼まれて貴族との会合に同席したこともある。あとでこっそりなにを考えていたか教えてほしい、と。さすがに会合の最中に手を握るわけにはいかないのでリアルタイムというわけにはいかなかったが、あとでものすごく感謝された。


「へぇ……そうなんだ。俺も体験してみたいな」

「――婚約者に言いつけるぞ」

「いや、そういうんじゃなくて! 単純にどんな感じか興味があるんだって!」


 オティリエはクスクス笑いつつ「いいですよ」と補佐官の手を握る。
 とそのときだった。


「楽しそうだね。僕も混ぜて……」


 ヴァーリックが執務室へと戻ってくる。けれど、彼の笑顔はどこかこわばっており、セリフも途中で途切れてしまった。


「ヴァーリック様?」


 オティリエがそっと首を傾げる。どうしたのだろう? 明朗快活なヴァーリックらしくない。
 と、どこからともなくズキンと胸が痛む音が聞こえてくる。


【これは……相当まずいかもしれない】

(え?)


 ヴァーリックの心の声に、オティリエは思わず目を見開いた。