『まあまあイアマ、彼もおまえのために頑張ってくれたんだ。そのへんで勘弁してやりなさい』

『お父様!? そんなの無理に決まってるじゃない!? 絶対に許せない! こんな男、さっさと首にして! じゃなきゃわたくしの気がおさまらないわ』


 珍しく仲裁に入った父親に対しイアマは激しく噛み付く。けれど彼はバツの悪そうな表情で、どうどうとイアマをなだめ続けた。


『そんなことで使用人を首にすることはできないよ。ただでさえ我が家は今、殿下に目をつけられているんだ。理不尽な解雇をしたと咎めを受ける可能性が高い。わかるだろう?』

『…………なによそれ』


 イアマは眉間にシワを寄せ、父親の胸をグイッと押す。


『殿下なんて、身分だけが取り柄の最低な男じゃない。わたくしに対してあんな失礼な態度をとった挙げ句、オティリエを補佐官として連れて行ったのよ!? 一体なにを恐れる必要があるの! 我が家の力を使えば、あんな男、なんとでもできるはずで……』

『いい加減にしなさい!』


 父親が怒鳴り声をあげる。生まれてはじめて聞いた父の怒声に、イアマは思わずたじろいた。


『オティリエのことはもう忘れなさい。あんな娘、はじめからいなかったも同然なんだ。おまえが固執する必要はない。……違うか?』

『それは……』


 そう言われてしまうと、イアマは返す言葉がなくなってしまう。
 本当は忘れられるはずがない。オティリエはイアマの優越感を満たすための道具であり、大事なおもちゃだ。数日の間にたまりにたまった鬱憤を晴らすために、オティリエの存在は必要不可欠なのだが。