「他の誰かが……たとえば文官や重鎮たちが『無理だ』と言ったとしてもひたすらに夢を見続ける。それを叶えるための道を模索する。僕はね、国を動かすものとして『こうしたい』っていう強い想いを持つことが大事だと思っている。だから、無理だと思うことでもどんどん口にしてほしい。できるかできないかはあとでゆっくりと考えればいい。だって、僕たちが理想を追い求めないで誰が追い求める? 実現させる? 夢のない国ほど悲しいものはないよ」

「ヴァーリック様……」


 トクントクンと心臓が鳴る。これは期待……あるいは興奮だろうか? オティリエがヴァーリックを見つめると、彼は目を細めて笑った。


「僕は王太子で、君はその補佐官なんだ。理想家であろう。貪欲にいこう。やりたいことは全部やる。もちろん、今すぐにってわけにはいかないかもしれないけど」

「はい、ヴァーリック様」


 先程男性に向かってヴァーリックが言っていたこと。彼は……オティリエは国や社会を変えるための力をもっているのだ。その言葉の意味を彼女は改めて噛み締めていく。


(私は……ヴァーリック様の補佐官なんだわ)


 なにやら身体が燃えるように熱い。
 新たな決意を胸に、オティリエは力強くほほえむのだった。