オティリエたちが男性の話を聞いて帰りの馬車に乗りこむ頃には、空はどっぷり暗くなっていた。昼間とは違った表情を見せる街並みを眺めながら、オティリエはほぅと息をつく。


「疲れただろう? 城に着くまで休んでいて」


 ヴァーリックはそう言ってオティリエを自分に寄りかからせる。すぐに襲いかかる心地よい睡魔。オティリエは首を横に振りながら、ぐっと姿勢を正した。


「大丈夫です。ヴァーリック様こそお疲れなのではありませんか?」

「ん? ……そうだね。かなり疲れた、かな」


 今度はヴァーリックがオティリエへと寄りかかってくる。ドキッと心臓が跳ねるのを感じつつ、オティリエは平常心を装った。


「それにしても、世の中にはひどいことをする人がいるものですね」

「……うん、そうだね」


 馬車に漂うしんみりとした空気。二人が考えているのは先程広場に馬車で突っ込もうとした男性のことだ。