「こう見えても僕は王太子だからね。君が欲してやまない国や社会を変えるための力をもっているんだ」


 男性がひときわ大きく目を見開く。彼は涙を流しながら、ガクリと肩を落とした。


「誰かを傷つけなくても、人々の注目を集めなくても、想いは届くよ。あなたがそれほどまでに思い詰めていたことを僕たちはちゃんと知っている。だから、どうか安心して。……自分の気持ちに素直になってほしい」


 ヴァーリックが言う。声にならない叫び声がオティリエの心に直接響く。悲しいのか、嬉しいのか、困惑しているのか……胸をかきむしりたくなるようなわけのわからない感情に、こちらまで泣きそうになってしまう。


「――ありがとう」


 消え入りそうな小さな声。オティリエはハッと男性を見つめる。


「止めてもらえてよかった。……ありがとう」


 嗚咽混じりの声はひどく聞き取りづらい。けれど、オティリエには彼がなんて言いたいのかがハッキリと聞こえる。


「はい」


 胸に手を当てながら、オティリエはそっと瞳を細めるのだった。