「オティリエ……」

「いえ、私が知ってどうこうできる話じゃないかもしれないし、そういう仕事を専門にしている人がいるってことも知っています。だけど私には、あの人が心のなかで叫んで、もがいて、泣いていたのがずっと聞こえていたから。だから……」


 心の声が聞こえるオティリエだからこそわかることがあるのではないか? ――おこがましくもそんなふうに思ってしまうのだ。

 ヴァーリックはそっと瞳を細めると、オティリエの頭を優しく撫でる。


「わかった、行こう」

「……! ありがとうございます! あの、わがままを言ってすみません。ヴァーリック様は私を気遣ってくださったのに」

「そんなこと思わないよ。僕はむしろ、オティリエのそういうところがすごく好きだ」

「え?」


 なんのけなしに紡がれた『好き』という言葉。けれど、オティリエに対する威力は絶大だ。


(好きって……好きって…………いえいえ、特別な意味じゃないってわかってますけど! できればもう少し別の言葉をチョイスしていただきたかったなぁ、なんて)


 ただの言葉の綾。こんなときに過剰反応すべきではない……そうとわかっていながら、オティリエの心臓はバクバクと鳴り響くのだった。