「フィリップさん!? そんな、馬車がもうあんなに近くにいるのに! あれじゃ正面からぶつかって――」

「大丈夫だよ、オティリエ。僕の従者はみんな素晴らしい能力を持っているんだ」


 そう口にするヴァーリックの表情は自信に満ち溢れている。オティリエはおそるおそる馬車のほうをもう一度見た。――と、先程まで広場めがけて走っていた馬たちが唐突に足を止めているではないか。


【なぜだ!? どうして馬たちは急に足を止めた!? 止まるな! 動け! 走れ!】


 バチン、バチンと馬を叩く痛ましい鞭の音が聞こえてくる。けれど、馬たちは微動だにせず、フィリップに向かって頭を垂れた。


「ヴァーリック様、そんな……信じられません。あんな状態で馬が止まるなんて」

「すごいだろう? 僕はフィリップを心から尊敬しているんだ。実は僕、かなりの動物好きでね。猫やら犬やら、捨てられた動物たちを保護して城で飼育してるんだ」

「はい、それは存じ上げております」


 その話を聞いてオティリエは自分も捨て猫や犬と似たような立場なのではないかと思ったのだ。当然、しっかりと覚えている。