「止まって! そっちに行ってはダメよ! お願いだから! 止まって!」


 必死に声を張り上げながらオティリエは馬車に向かって走っていく。けれど、地面の揺れる音が、事態に気づいて逃げ惑う人々の喧騒が、馬のいななきが、オティリエの声を妨げてしまう。


【行け……そのまま進むんだ! もうすぐ俺の願いが叶う!】


「オティリエ、あの馬車で間違いない? 僕には声が聞こえなくて……」

「ヴァーリック様、はい! 間違いありません!」


 先程までとは異なり、心の声がハッキリと聞こえる。オティリエはコクリとうなずいた。


「だけど、私じゃ彼を止められない。このままじゃ広場に突っ込まれちゃう……」

「大丈夫。絶対に止められるから。フィリップ」

「はい、ヴァーリック様」


 そのとき、ヴァーリックの護衛として残っていたフィリップがオティリエたちをその場に押し留める。それから彼は加速する馬車の前へと躍り出ると、右手をスッと前に掲げた。