「――オティリエはいつもの僕のほうが好き?」


 と、ヴァーリックが耳元で尋ねてくる。オティリエは驚きに息を呑み、顔を真っ赤に染めて視線をそらす。


「え? そんなことは……」

(なんで気づかれてしまったの?)


 今はヴァーリックに能力の譲渡をしていないというのに。半ばパニックのオティリエを見つめつつ、ヴァーリックはクスクスと笑い声をあげる。


「ごめんね。……今のは僕の願望。そうだったらいいなって思っただけなんだ」

「え?」

「僕はね、オティリエとおそろいの紫色の瞳をとても気に入っているんだよ」


 蠱惑的な表情。オティリエの心臓が小さく跳ねる。
 おいで、と手を引かれ、オティリエはヴァーリックの腕に自身の手を添える。それから二人はゆっくりと街に向かって歩きはじめた。


「そういえば、今日はオティリエに一つ、お願い事があるんだよね」

「なんでしょう、ヴァーリック様? なんなりとお申し付けください」


 どんなことをすればいいのだろう? 自分でも頼りにしてもらえることがあるのかと、オティリエは少しだけ気分が高揚する。


「今日は僕のことを『リック』と呼んでくれるかな? ほら、ヴァーリックって名前は珍しいからさ」

「えっ! さすがにそれはちょっと……」


 王太子を愛称で呼ぶのは不敬がすぎる。エアニーにバレたら冷ややかに怒り狂う案件だろう。