屋敷から約一時間半、王宮への道のりはまるで地獄のようだった。仲睦まじく会話をする父親とイアマの向かいの席で、オティリエはまったく口を開くことができない。


「ねえお父様、どうしてオティリエも同じ馬車なの? 一緒にいてもひとことも口を利かないし雰囲気が悪くなるだけじゃない?」

「ああ、すまなかったねイアマ。この子のためだけに別に馬車を出すのはもったいないと思ったんだ……それに世間体というものもある。今日だけだから我慢してくれるかい?」


 心の声で罵るよりも会話をしたほうが効果的にオティリエをいたぶることができると二人は知っているのだろう。これみよがしにオティリエを非難してくる。


(聞こえない、聞こえないんだから)


 別に自分が夜会への参加を希望したわけではない。悪いのは彼女を呼び寄せた王妃であり、それにこたえた父親だ。今さら一緒に馬車に乗るのが苦痛だとか目障りだとか言われても、オティリエにはなんの責任もない。