「頬や口紅は――ちょっと目に毒かな。可愛いのに艶やかってたまらない。うっかり見たら目が離せなくなりそうだ」

「それは……ありがとうございます?」


 目に毒などと言いながら、ヴァーリックはオティリエをまじまじと見つめていた。頬に、唇に視線が注がれていると意識すると、オティリエはなんとも表現しがたいいたたまれなさを感じてしまう。実際に触れられたわけではないのに、まるでそうと錯覚してしまいそうな、そんな感覚を。


(ヴァーリック様がそんなことを考えるはずがないのに)


 とすれば、これはオティリエの想像なのだ。そんなことを考えるなんて不敬が過ぎる。雑念を必死で振り払い、オティリエは平常心を装った。


「ドレスも髪型も本当に可愛い。普段とのギャップが大きいから、すごくグッとくる。僕の知らない一面が他にもっとあるんじゃないかって、色々と想像してしまうんだろうね」

「あっ、そこはカランがすごくこだわってくれたところです。いつもと同じじゃ新鮮味がないからって」

「そうなんだ。ねえ、カランには誰と出かけるって言ったの?」


 ヴァーリックはそう言ってオティリエの髪にそっと触れる。ドキッとしながら、オティリエは首を横に振った。