数刻後、オティリエは迎えの騎士に連れられてとある馬車へと向かった。馬車には先客がおり、オティリエを確認するなりニコリと微笑む。


「こんにちは、オティリエ。今日は来てくれてありがとう」


 そう口にする彼の表情は心底嬉しそうなもので。オティリエはドキドキしながら、深々と頭を下げた。


「ヴァーリック様……お礼を言うのはこちらのほうです。今日はよろしくお願いいたします」


 ヴァーリックはオティリエの手をとると、馬車のなかへとエスコートをしてくれる。オティリエが着席したのを合図に、二人をのせた馬車がゆっくりと走りはじめた。


「今日はいつもと違った印象だね」


 二人きりになるとすぐ、ヴァーリックが話題を振ってくれる。


「あ……服装ですか?」

「ううん。服も、髪型も、お化粧も。仕事のときとは違ってる」


 ヴァーリックはそう言ってオティリエのことをまじまじと見つめた。

 カランが選んだのは紫がかったピンクのシルクと、黒のレースが組み合わされたガーリッシュなドレスだ。プレンセスラインの柔らかなスカートに黒いレースの手袋、いつもよりかかとの高いエナメルの靴を合わせ、帽子でバランスをとっている。

 髪型は両サイドの髪をふんわりと巻いてからシニヨンにまとめた。

 お化粧はというと、カランがたっぷり時間をかけて艶肌を作り上げたあと、目の周りをあれこれ塗りたくられて人形のように大きな瞳ができあがった。頬紅と口紅はいつもより赤みの強いピンク。自分が自分じゃないみたいで、オティリエは少しだけ気が気じゃない。