(違う……これはなにかの間違いだわ)


 間違いというのは正さねばならないものだ。――というより、このままではイアマの気がおさまらない。

 イアマは階段を降りると、使用人の一人に声をかける。


「ねえあなた、城に行ってオティリエを連れ戻してきなさい」

「城に、ですか? しかし、私が行って相手にしてもらえるものなのでしょうか」

「わたくしが言ったことがわからないの? 連れ戻してきて」


 できるか、できないか、どんな方法を使うかなんてどうでもいい。イアマがほしいのは結果だけ。くだらないことを尋ねるなと心のなかで舌打ちをする。


「ああ、イアマ様……仰せのままに」


 イアマに見つめられると、使用人は頬を真っ赤に染め、トロンと夢見るような瞳になる。


(そう。これよ。これが正しい反応なのよ)


 ヴァーリックによってズタズタにされたイアマのプライドが、自己顕示欲が満たされていく。


(今にみてなさい)


 イアマは王都の方角を睨みつけると、手に持ったナイフを勢いよく振り下ろした。