(ああ……忌々しい。一体どういうことなのよ!)


 アインホルン家の屋敷の一角――かつてオティリエの私室だった場所にイアマはいた。床にはナイフでズタズタに切り裂かれた枕やシーツ、羽毛が散らばっている。

 妹のオティリエが王太子ヴァーリックに連れて行かれてからもうすぐ一週間。

 父親によると、オティリエはヴァーリックの補佐官として採用され、城で働いているらしい。王族の補佐官といえば文官たちのなかでもよりすぐりのエリート。将来の出世を約束されたも同然だ。優秀と謳われるアインホルン家の一族ですらも、過去に補佐官としての地位を勝ち取ったものはそう多くないと聞く。


(それなのに、あの子がヴァーリック殿下の補佐官ですって!? ありえない。務まるわけがないのに)


 イアマはオティリエになにも与えなかった。父親や使用人たちの愛情も、慈悲も、食事だってまともにとれない状況に追いやってきたし、教育を受ける機会も講師たちを魅了して奪い取った。だからオティリエは誰ともまともに会話すらできない。そんな出来損ないが使い物になるとはとても思えなかった。

 しかし、どうせすぐに戻ってくるだろうというイアマの想定とは裏腹に、オティリエは未だ王宮にいる。