「オティリエ、あの……」

(頑張って、一日でも早く強くなりたい。助けられるだけじゃなく、私がヴァーリック様を守れるようになりたい。他の補佐官みたいに、ヴァーリック様に自慢に思ってもらえるような女性にならなきゃ)


 と、オティリエの耳に【ドキドキ】と、心の声とは別の音が聞こえてくる。しかし、この部屋には他にヴァーリックしかいないはずだ。しかもそれは、オティリエの鼓動とは違うタイミングで彼女の心に響き渡る。


(それじゃあこれはヴァーリック様の……?)


 そんなまさか――怪訝に思いつつオティリエがゆっくりと目を開ける。すると、真っ赤に頬を染めたヴァーリックが目に飛び込んできた。


「え?」


 どこか気恥ずかしげなヴァーリックの表情。オティリエの鼓動の音が――彼女とは別の【ドキドキ】の音が大きくなる。


(つまり今、ヴァーリック様がドキドキしていらっしゃるの?)


 どうして? ……動揺のあまり思考が上手くまとまらない。ハッキリと尋ねることも気が引けて、けれどどうしても気になって、オティリエはヴァーリックの顔を見つめてしまう。


「ごめん――僕もまだまだ修行が足りないみたいだ」


 ヴァーリックが口元を隠しつつ、悩まし気なため息をつく。


「え? ……えぇ?」


 なんのことかよくわからないまま、オティリエは自分とヴァーリック、二人分の鼓動の音を聞き続けるのだった。