そのうえ、父親が呼んだマナー講師はオティリエを蔑むことも侮ることも嘲ることもなかった。


「素晴らしい。オティリエ様は非常に飲み込みが早いです」


 他人から否定されてばかりのオティリエにとって、これはあまりにも嬉しいことだった。
 もちろん、心のなかでは時折【アインホルン侯爵家ともっとお近づきになりたい】といった本音が見受けられたものの、その程度の打算はあってしかるべきものだ。家族や使用人たちとは比べ物にならない。他人の悪意にさらされ続けたオティリエにとってはあまりにも貴重なひとときだった。

 しかし、そんな講師も日が経つにつれてオティリエに冷たくなっていく。


(どうして? 私、そんなに下手くそだった? それとも、お姉様が魅了を……?)


 だとしても証拠がない。単に成長が遅いオティリエに見切りをつけた可能性もある。それに、仮に魅了をされたとわかったところで彼女にはどうすることもできない。

 それでも、なんとか講義だけは受け続けることができ、オティリエは無事に当日を迎えることができた。