シングルマザーでしたが、オフィスビルで俺様社長と一緒に子供を育てています。

「どうしたんですか? そんなに急いで」

 会うのは気まずいが、何か慌てているので思わず声をかけてしまった。顔色が真っ青になっており、いつもクールな表情とほど遠い。
 すると、私の肩を掴んできた。

「お祖父さんから聞いた。会社を辞めるって本当か!?」

 どうやら田中さんから退職する事を聞いてしまったらしい。

「……はい」

「どうしてだ? 責任は、ちゃんとあの男に取らせただろう!? もう無事に解決したんだ。辞める必要なんかない」

 八神社長は怒るように、そう言ってくる。胸が痛い。

「……そういう訳にはいきません。それで会社の信用を失う原因にもなったのですから。それに……これ以上ご迷惑には」

「俺がいつ、君に迷惑だと言った!?」

「……それは」

 咲希は言葉に詰まった。直接言われた訳ではない。思っても、冷たく突き放さない人だと一緒に生活して分かっていた。彼は不器用だけど優しい。
 だからこそ、それに甘えるのが辛い。

「……俺は」

「ぱぁぱ」

 すると、どういう事がおぶっていた奏太が八神社長をパパだと呼ぶ。
 えっ? どうして??
 咲希は一度だって、そんな風に教えた事はない。

「ぱぁぱ。ぱぁぱ~」

 何度も呼んでは、抱っこをねだるように手を出してくる。

「ちょっと、奏太? 八神社長はパパじゃないわよ」