シングルマザーでしたが、オフィスビルで俺様社長と一緒に子供を育てています。

八神社長はギロッと翔也を睨む。すると、たじろぐ翔也。
 彼が八神社長だと気づいたのか分からないが、

「くっ……俺は諦めないからな」

 それだけ言うと翔也は立ち去って行った。何で今さら現れるの?
 目尻から涙がボロボロとこぼれていく。すると八神社長がハンカチを取り出して咲希に差し出してくる。

「彼が、もしかして君の言っていた元婚約者か?」

「……はい」

 咲希はハンカチを受け取るが、下を向きながら頷いた。
 まさかこんな場所で再会するとは思ってもみなかった。エリートだし、営業をやっているから、こちらに来る事もあるかもしれないと考えれば分かりそうなのに。
 頭の中がパニックになる。これだと奏太の事がバレてしまう。
 今の彼なら、奏太を見たら父親だと言いかねない。事実そうなのだが、会わせる気はない。でも……実の息子だからと主張してきたら。
 また揉める事になりかねない。それこそ浮気相手として晒されたら。

「しっかりしろ。君は被害者だ。もし何か言ってくるなら俺に言え。いいな?」

「は、はい」

 ガシッと肩を掴まえられてそう言ってくる八神社長。咲希はハッとする。

(そうよ……私がしっかりしないと。奏太のためにも)

 ガタガタと震える身体を何とか持ちこたえる。きっと顔は真っ青だろう。

 しかし、翔也の事は今回の事で終わらなかった。
 電話やメッセージアプリで「やり直そう」「どうして俺の気持ちを分かってくれないんだ」など。しつこく連絡がくるように。
 それでは飽き足らず、営業と言いながら会社の周りをうろつくようになってしまった。何故そこまで自分に拘るのか分からず、動揺を隠せなくなってくる。