9.下駄箱

「美琴ーー。花火大会一緒にいこーよー!」
「えーーー。もう私小泉くんと約束しちゃったよー。」
「えぇ!?!いつの間にそんな仲良くなってたの、、。」

「えぇ、じゃあさ!!加藤くんも誘って4人で行くのはどう?」

美琴の変な提案のせいで、小泉くんもその気になって私が誘う流れになってしまった。
「明日なんだから今日中に誘っておきなさいよー!」
美琴と小泉くんは手を繋ぎながらそう言って教室を後にした。

私は下駄箱で加藤くんの帰りを待つことにした。

「りの。明日、いつもみたいに花火大会一緒に行こうね?」
「あぁ、、、今年はごめん。」

「、、、、なんで?」
「他に誘いたいやつがいて。」

「りの、、変わっちゃったよね。」

この声は陽真里ちゃんと加藤くんだ。
陽真里ちゃんが走って帰ろうとした時、私と目が合ってしまった。
陽真里ちゃんは決まり悪そうに目を逸らして帰っていった。


「谷口?」
「えぇ!?!なんでバレてんの、、」
「バレバレなんだよ。」
「ごめん、盗み聞きしようとしたわけじゃなくて、、」
「お前。、、他に誘いたいやつってお前のことなんだけど、、、どうかな。」
そういう加藤くんは校庭の方を見ている。
「えっとーー。実はね私も加藤くん誘おうと思ってたの!美琴たちと4人で行かない?」

すると突然加藤くんはこっちを向いて、嬉しそうに微笑んだ。
「お、おぅ。」
「じゃあ明日!5時に入り口で待ち合わせね!」
「わかった!」
食い気味に言う加藤くんは子供のようで少し可愛かった。


10.花火大会

今日は花火大会の日、、、なのに風邪をひいてしまって微熱と頭痛がある。
でもこれくらいなら平気だよね、、。
重い体に鞭を打って家を出た。

浴衣を着ているせいで、ゆっくりと歩いていると

「おねえさーん、かわいいねー。俺らと遊びに行かない?」
チャラそうな二人組の男性に絡まれてしまった。
「今急いでるんでやめてください、、キャッ、、」

片方の男性に肩を組まれてしまった。
いつもなら振り払うのに、力が思うように出ない。

「おねえさん熱でもあるの?ちょうどいいや」
2人の高笑いが耳の奥まで響く。



「やめてもらっていいすか?俺の連れなんで。」
「あぁん?!彼氏持ちかよ、、。」
「つまんねーの。他の女探そうぜ!」

「加藤くん、、?」
意識が朦朧とする中、見上げると加藤くんの美しい顔が間近にあった。
今きっと加藤くんが私の体を支えてくれてるのだろう。

「おい!谷口!?」



11.加藤くん

気がつくと私はベットの上にいた。
「ここどこ?」
「目覚めたのか!!良かった。」
ベットの隣で加藤くんが私の手を握り、すごく安心したような声を出した。

「えぇ!」
「あぁ悪い。」
加藤くんは慌てて手を離した。今まで気づかなかったけど加藤くんもしっかり浴衣を着ている。

「ごめん。私のせいで花火大会台無しにしちゃって、。でもなんで助けに来てくれたの?」

「集合時間になっても来ねえから、、心配で。
ちょっと探したら変な奴らに絡まれてる顔真っ赤なお前を見つけて、、。」

「また加藤くんに助けてもらっちゃった、、。」
「もう、、心配かけんなよ。」

そう言って加藤くんは私のおでこに手をのせて熱を測り、私に布団をかけ直して部屋を出ていった。

しばらくすると加藤くんはお粥を持って戻って来た。

「これ作ったから食べろよ。」
「梅、、、。」
そこには私の大好物の梅が入っていた。
「安達に聞いたら、梅が好きって聞いたから、、」

「うん大好き。ありがとう!」

すると加藤くんはスプーンでお粥をすくいふーふーして私に食べさせてくれた。
すごく恥ずかしい。


「甘っ!!」
「え?」
「ちょっと加藤くんから食べてみてよ!」
「甘っ!」
「もしかしてお塩と砂糖間違えて入れた、、?」

すると加藤くんは驚いて顔を真っ赤にしながら
「もういいよ。片付けるから。」と言って部屋から出ようとした。

「いいよいいよ!食べるよ!せっかく作ってくれたんだもん!!しかもこれはこれで美味しいかも!」

「谷口、、」
加藤くんからお皿を無理やり取って、私は完食した。

「無理しなくていいのに、、。」
「ごちそうさま!すごくおいしかったよ、ありがと!」
見つめながら笑顔でそう言うと、加藤くんはくるっと回って私に背を向けた。

「加藤くんってさ、本当に優しいよね。なんで教室ではあんなツンツンしてんの?」
私はちょっとからかってそう聞いてみた。

「谷口にだけだよ。俺が優しくできるのは、、。」

「なんで私?」

「それは、、す、、」

「す?」
 

「し、心配だから!!」

「そっか、、。私ってほんとドジだもんねー。」

「もう、、寝ろよ。熱あがんだろ?」
そう言って私からお皿を奪いそそくさと部屋を後にした。
      

        「いたっ!!」
なぜかすごく焦って部屋に戻って来たせいで加藤くんはドアに足をぶつけてらしい。

「え、大丈夫??」
「谷口!!!花火!!花火見えるぞっ!」

そう言って私を支えながらリビングまで案内してくれて、窓を開けてベランダに出た。

「すごい!!めっちゃ綺麗に見えるー!」
「だろ?良かったな。花火見れて。」
「うんっ!」
ベランダは特等席のようで、花火が真正面に大きく打ち上がった。