4,電話
ふーーう、今日は流石に疲れた。
私はベッドに倒れ込むように飛び乗った。
すると自然に今日の加藤くんの様子が思い出された。
意外と優しくて不思議な人だったなー。
そうぼーっとしていると
       ピロリンピロリン♩

誰からだろ。
重たいまぶたを開けて画面を見ると、、、
[紘くん]の文字があった。

え、ちょっとまって!!なんでこんな急に!!
恐る恐る電話に出てみることにした。

「もしもし優愛?ごめんね、急に電話かけちゃって。今って大丈夫かな?」
「う、うん。」
「はぁよかった。優愛久しぶり!」
「久しぶり。」
電話越しでも紘くんの声を聞くだけで、あの甘い笑顔が浮かんできた。
「ごめん、今まで仕事とかでバタバタしてて全然連絡できなくて、、。」
「平気だよ!でも、どうしたの?もう忙しくないの?」
「うん。実はグループの活動、少しだけお休みもらえることになったんだ」
「そうなんだ。あーーえっと、、」
「優愛?もし良かったら今度の花火大会、一緒に行かない?」
「えぇ!?!?」
「ふふ笑、そんなに驚くかな。」
「いや、だって。」
相手はアイドルだよ?私なんかと一緒に花火大会だなんて!!記者に撮られたりしたら紘くんに迷惑かけて、、。
「まあ、考えといてね?またお返事待ってるから。夜遅くにごめん優愛の声聞けて嬉しかった。しっかり寝てね。おやすみ。」
「紘くん、、。おやすみなさい。」

紘くんは変わっていなかった。声だけなのに全部を包み込んでくれるような甘く溶けそうな雰囲気。
紘くんがいればそれだけでいいって思っちゃう、、

そんなことを考えながら私はいつのまにか眠っていた。

5.私なんか

今日は修学旅行の班を決める日。もちろん仲良しの美琴とは一緒になる約束をしてある。
あとは男子2人と組まなくてはいけない。

そういえば、、加藤くん。一緒になろうって言ってくれたけど。
振り返って加藤くんの席を見ると、そこには加藤くんと同じ班になりたい女子たちが群がっていた。
「加藤くん!うちらとなろーよ!前のクラスも一緒だったし絶対楽しいよ!!」
「加藤くん、私たちとなってくれなーい?♡」

「りの‼︎私たちと組んでよ。」
下の名前で呼び捨て、、。
それは加藤くんと中学の時から仲がいいというクラスのマドンナ的存在の夢陽真里(ゆめ ひまり)ちゃんだった。
こんなたくさんの子に囲まれているのに加藤くんは外を見つめたまま黙り込んでいる。

「りのってば!!」
ひまりちゃんはしゃがんで加藤くんの視界に入り込んだ。

「悪い。」
加藤くんがそう口を開いた途端、あたりが静まり返った。
「俺さ、、谷口と約束したから。」

バッとクラス中の視線がこっちに降り注いだ。
な、なんてことを言ってくれたのだろう。
これは紘くんと一緒に登校した日の廊下での視線と同じやつだ。
やばい。やばすぎる。

「え、りの。どういうこと?なんで、谷口さんと?仲良かったっけ?」
ひまりちゃんは私のことを凝視しながら加藤くんにそう聞いた。
「別に。関係ないだろ?」
え、冷たい。あんなに優しかったのに。
本当の加藤くんがどんどんわからなくなっていく。


「じゃあこれで決まりでいーな!」先生がそう言ってなんとか班が決定した。
私の班は美琴と加藤くんと加藤くんと仲良しの小泉くん。
いまだにチラチラと女子たちがこっちをうかがっているが、頑張って気づいていないふりをした。
解散の時間になって急いで教室を出ようとしたその時、「谷口!!ごめん。居心地悪くさせちまったよな。」わざわざドアのところまで走って加藤くんが謝りに来てくれた。
「え!?加藤くんが謝ることじゃないし。むしろ私が心配だからってごめんね同じ班になってもらっちゃって」

「これ。」
そう言って加藤くんは私の手に何か握らせてきた。
「連絡先。なんかあったら連絡して。」
いや、みんな見てるよ?、、
「あーーーうん、ありがとね。じゃあ!!!」

なんとか走って学校を後にした。
教室のドア沿いであんなことされたらみんな見るに決まってる。あの痛い視線、、加藤くんは気づいてなかったのかな。

近くのカフェで一息ついていると、
「谷口さん。」
後ろから笑顔の陽真里ちゃんに声をかけられた。
「偶然谷口さんのこと見かけたから声かけちゃった!」
そう言って前の席に座った陽真里ちゃんは、クリクリな目に長いまつ毛、整った鼻にぷるぷるな唇。
これが美女ってやつだと思い知らされるような顔だった。