1,紘くん

「俺さ、アイドルになるんだ。」

去年、私が高校一年生のクリスマスの日。

ひとつ年上の幼馴染、宇塚紘(うづか ひろ)くんにそう告げられてから、私の人生は色を失ったようにつまらなくなった。

紘くんは顔もかっこよくてスタイル抜群で、文武両道な上に誰にでも優しい王子様のような性格で学校中のアイドルだった。

その反対に私(谷口優愛・たにぐち ゆあ)は、顔もスタイルも普通、おまけにバカで運動音痴のドジでいわゆる脇役Cくらいの人間だ。

家が隣で親同士が仲良かったから紘くんは昔から一緒に遊んでくれた。ただそれだけだ。

だから学校では「イキってんじゃねえ」だの「釣り合ってない」だの何度も何度も言われてきた。

でもその度に紘くんは「大丈夫だよ。優愛は優愛のままでいいんだよ」って隣で頭を撫でてくれた。

    紘くんがいればなんでもいい!!

そう思っていたのに、、、


「え、アイドル、、なんでなんで!?紘くんそういうの全然興味なかったよね!?」

「まあね、、」紘くんは少し呆れたように微笑みながらそう言った。

いつもそうだ。紘くんは自分のことをさらけ出そうとしない。何かを隠すように甘く微笑むだけだ。

アイドルになるってことは、これから一緒に居られなくなるし、紘くんはたくさんのファンの人に囲まれて私のことなんて忘れちゃうんだろうな、、、
そんなことを考えていると勝手に涙が溢れてきた。

「優愛?泣かないで。優愛が呼んでくれたら俺はいつだって駆けつけるからね。」
そうやってまた私の頭を撫でてくれた。
その言葉は何故かもうアイドルのリップサービスのように聞こえてしまった。