事故から1週間後であった。

わしは、悩んだあげくにタクシードライバーをやめることにした。

わしは、だまって辞表を社長さんに出した。

「長い間、お世話になりました。退職金はいりません。」

その後、わしは静かに会社を去った。

次男が起こした交通事故で被害を受けて苦しんでいる被害者のご家族のみなさまを思うと…

すごくつらい…

ワシは、タクシードライバー失格じゃ…

事故から1ヶ月後であった。

妻が体調を崩して、パートタイマーをやめた。

それから6ヶ月後であった。

京都地裁で判決公判が行われた。

8人の小学生の児童が負傷した交通事故で、次男が運転をしていた軽自動車に同乗していた仲間たちは、懲役25年の有罪判決を受けた。

同時に、長男が大手都市銀行をやめた。

そして、泣く泣くわしらのところに帰って来た。

その日の夜のことだった。

家族3人は、薄暗い灯りの下で、話し合った。

「(次男が起こした)交通事故で…お父さんはタクシードライバーをやめた…あんたも、会社から出向を命ぜられた…お母さんも体調を崩して…パートをやめた…もう、どうすることも出来ないわ…」

妻は、声を震わせて言うたあと泣き出した。

だまってうつむいている長男は、声を震わせて泣いた。

そしてわしは、より大きな決断を下した。

次の朝…

わしは、同行二人《どうぎょうふたり》と書かれた白装束を身にまとい、菅のかさをかぶったおへんろさんの姿で家の前に立っていた。

わしは、これから四国巡礼八十八札所めぐりの旅に出る…

あとは…

頼むよ…

わしは、静かに別れを告げた。

それから2ヶ月後であった。

わしは、青龍寺《しょうりゅうじ》を出たあと海沿いの国道を歩いて旅に出た。

わしは、次男が起こした交通事故で被害を受けて苦しんでいる被害者と家族のみなさまに対するつぐないと家族を不幸にさせたことをつぐなうために、おへんろ旅にしている…

旅は、まだまだ続く…

【正晴・終わり】