ここまで言ってしまえば、受け取らない人はそういないだろう。


「多めの試食みたいな感じですね?」

「そうですね、あわよくば常連に……みたいな下心です」


 榊原さんの眉尻が僅かに下がった。

 
「本当にありがとうございます、頂きます」


 よし! 作戦成功!

 内心でガッツポーズをしながら、お淑やかに紙袋を手渡した。


「でも同僚の人が常連になったりして」


 葉月の言葉で現実に引き戻される。確かにその可能性もある。でも一番最悪なのは。


「そもそもどっちも来ないかもしれない」

「やっぱりそこは賭けだよねぇ」


 葉月が顎を撫でる。ベージュのネイルが蛍光灯に照らされてきらめいた。


「うちの店が榊原さんちから遠かったりしたら……うん、厳しいかも」

「そもそもここって午後六時から午前零時までだもんね……」


 私は壁にかかってる時計を見た。アナログな振り子時計は午後七時三十分を示している。