私は胸に手を当てて、さも安心したと言わんばかりに微笑んだ。


「こちら、傘のお礼なんですけど……よろしければ召し上がってください」


 そう言って紙袋に入った肉じゃがと名刺を渡した。名刺には“小料理屋〈春涛〉”と書かれている。お祖母ちゃんの店であり、いつか母の代わりに継ぐ店だ。


「いえ、本当にただの安物ですから」


 榊原さんは胸の前で手を振った。想定通りだ。


「違うんです、これ半分宣伝みたいなものですから」


 最初は受け取ってくれないだろうと考えた私は、ある作戦を練った。


「私の祖母が小料理屋を経営してるんです。私もお手伝いさせてもらってるんですけどね」

「……隣町にあるんですね」


 榊原さんは名刺だけを受け取って、まじまじと確認していた。よしよし、つかみは上々だ。


「うちの看板料理の肉じゃがです。口に合わなかったら捨ててもらって構いませんから」