私はエプロンをつけて長田さんが来るのを待っていた。入り口も店の中もピカピカに磨き上げている。隙はない。
何たって、今日はお祖母ちゃんの快気祝いなんだから。
あれからお祖母ちゃんは持ち直した。だけでなく、一週間前には目を覚まし、退院の目処もついた。それを常連さんたちに話すと、長田さんが快気祝いをやらないかと提案してくれたのだ。
皆んなして賛成したは良いものの、集まる時間はバラバラだ。社会人なのだからこれはしょうがない。むしろ当日に全員集まれるのは奇跡だ。
まず先に来れそうなのが長田さんで、開店時間とほぼ同時に来れそうだと言っていた。なのでそろそろ熱燗の準備をしなくてはならない。彼女の〝いつもの〟ってやつだ。
徳利と日本酒を取り出そうとしたら、店の電話が鳴った。
「もしもし」
『もしもし、榊原です』
「え、ああ、お久しぶりです」
とっさに取り繕って平然を装う。



