暗闇だから、怖くなかった




「とりあえず、座りましょうか」


 彼女の言葉に俺は慌てて向かい側の席を引いた。高槻さんはくすりと笑って、大丈夫ですよ、と自分で席を引いた。


「会うのが遅くなってしまって……本当に申し訳ありません」


 開口一番にこんなことを言い出して頭を下げてくるので、俺は冷や汗をかきながらそれを止めた。


「いいんです! 全部俺のわがままだし、高槻さんはお忙しい方ですし……!」

「違うんです、ずっと榊原さんに言わないといけないことがあって……」


 彼女は姿勢を正すと、俺の目を見てはっきり告げた。


「あれは、あなたのせいじゃありません」


 一瞬だけ、周囲の音が消えた。時間が止まったような気がした。


「ずっと」

「……」

「ずっと、あのときの発言を後悔してきました」

「それは……」

「家を捨てることになっても逃げろと、説得すべきだった」


 俺の懺悔に、高槻さんは静かに頷いた。