暗闇だから、怖くなかった




 それからスーパーに寄って、夕飯用の惣菜を眺める。妹の「買うなら割引されてるやつにして」とのひと言を思い出し、俺は値引きシールが貼られているものを適当にカゴに入れた。

 セルフレジで袋詰めしている最中にそれが肉じゃがだったと今になって気づいた。ほぼ茶色の中に散らばる赤。森さんの出来立てホカホカの肉じゃがを思い出して、茶碗蒸しも食べたくなった。

 それでも、今は会いに行くわけにはいかない。

 自分の気持ちにケジメをつけなくては。

 俺は袋を片手に家路を急ぐ。高槻さんから連絡が来なければ、それはそれで良い。俺の気持ちを押し付けるわけにはいかない。それでも、せめて妹の名前で定期的に寄付をすることは許してもらえないだろうか。

 俺は悶々としながらドアを開けた。まだ妹は仕事から帰ってきていないから、手早く準備だけしてしまおう。

 上着をハンガーにかけようとして、ポケットに入れていたスマートフォンが落ちてしまった。慌てて拾い上げると通知が来ている。


 高槻さんからだった。